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スペインコラム Vol.10トマティーナとシポテガトの話
【トマティーナとシポテガト】
日本でもすっかりおなじみ、バレンシアのトマト祭り「トマティーナ」。今年も日本のテレビ局が中継を行っていたので、参加者がトマトをぶつけ合い街中がつぶれたトマトでいっぱいになる様子をテレビでご覧になった人も多いのでは。 もう一つのトマト祭りはサラゴサ県タラゾナ市で同時期に開催される「サン・アティラノ祭り」で、シポテガトと呼ばれる人物に向かって参加者が一斉にトマトを投げつける、というもの。こちらは意外に知られていないのかもしれない。
「トマトを投げる」という共通点はあるものの、異なるこの2つのお祭りをご紹介。
【トマティーナ/Tomatina】
毎年8月の最終水曜日にバレンシアの小さな村ブニョル/Bunolで開催されるお祭りがトマティーナ。午前11時から12時までの1時間、トラックで運ばれてくる真っ赤なトマトを参加者同士がぶつけ合う。
お祭りは広場での前夜祭(トマトは無し)に始まり、当日朝には市役所前で朝ごはんとなる菓子パンが配られる。 10時にはPalo Jabon / パロ・ハボン→(石けん棒)が立てられ、先に吊るされた生ハムを目指して参加者が棒に上り始める。電柱のような棒に石けんをたっぷり塗り込んだ棒のため、すべるので上りづらい。勝者が生ハムを手にするまでトマト祭りは始められないので、見物人も必死に応援をする。
11時、ピストル音を合図にトマトの投げ合いが始まる。かなりクレイジーなお祭りではあるが、安全に楽しめるように規則があり、「トマトは手で潰してから投げる」「時間外にトマトを投げない」「衣服を破らない」「トラックに気を付ける」「ビンなどの危険物は持ち込まない」など。その他、水着やTシャツなどは終了後捨ててもよいもの、目を酸から保護するためにゴーグルの着用を薦めている。
終了後は村の人が提供してくれるホースの水や、市が用意するシャワー施設などでトマトを洗い流す。ビニールで覆われていた村の建物や道路は、散水車で一気に洗われ、約2時間ほどですべてきれいになるのだそう。
1945年、村で行われていた夏祭りの最中に、広場で演奏しながら歌っている人物の歌があまりにも下手だったので、通りかかった若者グループが八百屋の店頭に並んでいたトマトをなげつけた。それをきっかけに、広場にいた人たち全員が冗談でトマトをぶつけ合い始めた、というのが一説。
又は、同年、村祭りを見物していた若者グループがブラスバンドの演奏隊行列に参加しようとしたが受け入れられず、押し合いとなったひょうしにカベスロ(各地のお祭りに出てくる、巨大な人形の着ぐるみで仮装している人物)にぶつかり、押し倒す形となった。怒ったその人物が、広場の八百屋の店先で販売されたいたトマトを手に取り、周りの人に投げつけ始めたのがはじまり、という説もある。
最初の数年間はトマトを投げる行為が警察沙汰になった上に逮捕者が出たり、罰金刑が科せられて禁止されたりしたが、村人の要望で1959年には公式な村祭りと認められるようになる。のちにスペイン国営テレビの番組で紹介されたのをきっかけに、全国的に有名になった。
【シポテガト/Cipotegato】
アラゴン地方のサラゴサの都市、タラゾナ/Tarazonaでは、8月27日に街の守護神サン・アティラノ/San Atilanoを祝うお祭りが開かれる。 シポテガト/Cipotegatoと呼ばれる人物がスペイン広場から街を一周する間、人々は「シポテ!シポテ!」と叫びながらトマトを投げつける。シポテガトは市民の若者の中から有志を募って抽選で選ばれ、赤、緑、黄色の横縞模様のつなぎに覆面をかぶって登場する(衣装は※アルレッキーノをまねたもの)。スペイン広場にあるシポテガト像まで戻ってから覆面をとるまで、中にだれが入っているかは明かされない。
※アルレッキーノ (Arlecchino) はイタリアの即興喜劇コメディア・デラルテ中のキャラクターの一つで、トリックスター。ひし形の模様のついた衣裳で全身を包み、ずる賢く、人気者として登場することが多い。
今年の参加者は12000人、約12分間かけてシポテガトが街をまわる間、10トンのトマトが彼をめがけて投げられた。抽選で選ばれてシポテガトの役を引き受けた青年は、「息が詰まりそうな瞬間もあったが、終了後に市民の前で覆面をとる瞬間の感動はすばらしく、経験しないとわからない」とコメント。このイベントをもってサン・アティラノのお祭りが開会され、9月1日までの1週間、宗教行事をはじめ、民謡、オーケストラ、闘牛、花火などが連日、深夜まで行われる。
お祭りの歴史は300年といわれ、シポテガトは市役所前にモニュメントがあるほどの人気者だが、もともとは昔の宗教行事の際、言うことを聞かない子供たちを棒で叩いて追い掛け回す悪役として恐れられていたそう。20世紀に入ると、数人のやんちゃな子供たちがシポテガトにトマトなどを投げつけて反抗するようになり、1974年、回を重ねるごとに図に乗り、エスカレートしていったシポテガトの態度に反感を持った街の人々が、お祭りを主催していた市長や警察をめがけてトマトをなげつけたという。
シポテガトは村の有志が少しのお金と闘牛の入場券をもらって引き受けていたが、あまり快い人物像ではないため、1985年、とうとう有志として名乗り出る人が誰もいなくなる。結果、陽気で楽しく、心の優しい新しいシポテガト像が作られ、現在のように報酬なしのボランティアとして市民から募集。名誉ある人物像として、毎年多くの人が抽選に参加するという。
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